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札幌家庭裁判所 昭和45年(少ハ)7号 決定 1970年9月09日

少年 N・O(昭二四・一二・一四生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

一  本件申請の要旨

東京医療少年院長梶村洋一は、昭和四五年七月一五日付で少年院法一一条二項に基づき、在院中のN・Oについて本人が少年院に送致された日から一年間を経過した昭和四五年一〇月六日より一年間の収容継続を申請した。その理由の骨子は、「本人は現在一級の下で、出院段階に至る治療教育効果をあげるためにはなお相当の期間を要する。学業面、体育面に今一段の強力なる教育的治療を継続する必要があり、また社会適応の意欲を喚起させ、自信を付与するために出院準備教育としての院外補導のコースにも乗せたい。一方、受入環境の調整と出院後の職業についても充分な準備決定期間が必要である。その他保護観察期間をも勘案して一年間の収容継続決定を申請する。」というのである。

二  当裁判所の判断

審判の結果および一件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  本人は、昭和四四年一〇月六日当庁において窃盗等保護事件により医療少年院送致の決定をうけた。右非行は、その動機が単純、手口も幼稚で本人自身の非行性もさほど進んだものとはいえなかつたところ、本人はIQ五九以下(新田中BI)、五三(田中びねI)とかなり低い精神薄弱であつて、しかも決定当時その保護者が本人の引取りに消極的であるなど、これを受入れるべき環境が整備されていなかつたことが前記決定の主因であつた。

(二)  本人は、昭和四四年一〇月七日北海少年院に入院し、翌四五年一月二二日に東京医療少年院に移送されたが院内ではおとなしく、対人関係も良好で、問題行動は見当らず、順調に同年九月一日には一級の上に進級し、在院期間を通じて特別の変化はないが、最近多少自信めいたものを持ちはじめている。

(三)  受入環境については、東京都大田区で左官業を営む義兄が本人を進んで引取り、四歳年上の実兄と一緒に雇用する意思で、本人も従前働いていた所であり、これを希望しておつて引取態勢は良好である。以上の事実を総合すると、本人はその能力の割には努力して大過なく院内生活を送つているということができ、前記本人の知能、在院中格別の変化がみられなかつたことなどを考慮すれば、今後少年院長のいう院外補導(当裁判所としては本件において、満期以前にこの措置をとりえたのではないかとの憾みを持つている。)、環境調整(具体的にどのような措置が考えられているかは不明である。)あるいは、若干の保護観察期間を置くことにより、多少本人の改善に資するところがあるにしても、相当の矯正効果があがるとは思えず、未だこれらをもつてしては、収容を継続する充分な根拠とはいえない。

そして、前記本人の非行性の程度に受入環境が改善されたことを併せ考えれば、現在本人にその収容を継続してまで矯正せねばならぬ犯罪傾向があるとは認め難いので、本件申請を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 前川鉄郎)

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